07 参加することに意義がある

文聞亭笑一

前号06で少し先走ってしまったようで、熊本の兄への金の無心や寄付の話は今週の筋書きだったようです。

あまり先走っては興をそいでしまいますが、なにせ「駆けっこ」の話ですから…先へ、先へと走ってしまいます。

お江戸日本橋

前回の放送の最後の方で、四三の練習コースとして「日本橋から芝まで」と設定していました。

ストックホルムの石畳の道路を想定してのコース設定ですが、当時の日本で石畳の道があったかどうか・・・。

ともかく、日本橋から芝までなら東海道の出発点、一丁目一番地のようなところです。

右図は安藤広重の東海道五十三次図の最初の絵として有名なお江戸日本橋です。

大木戸があって、ここから東海道へ出発します。

大木戸の脇には高札場があり、お触書が立てられ、時には橋の脇に「晒し者」という罪を受けた罪人が晒されています。

お江戸の中でも最も人通りの多かった場所でした。

江戸日本橋 七つ発ち 初上り 

行列揃えて あれわいさのさ

こちゃ 高輪 夜明けて提灯消す

こちゃへ こちゃへ 

良く知られた歌ですが、意味が分かりますか?

「こちゃ」は「こちら」が訛った言い方ですから客引きが通行人を茶店に呼び込む囃子声ですね。

七つ発ち・・・午前4時頃です。随分と早い出発ですねぇ。まだ暗いうちです。

この歌は大名行列の歌ではありませんから、商家の若旦那が初めて京大坂へ仕入旅に出かけるのでしょうか。それともお伊勢参りか?はたまたお正月の歌か? この歌は18番まであって、最後は草津、大津から都入りします。

ですから、「初めての京までの旅」と解釈するのが良さそうです。ともかく初めての旅なので、見送り衆がぞろぞろとついて来ます。提灯行列ですねぇ。

そして高輪の大木戸・江戸の出口に着く頃に夜が明けます(提灯消す)。見送りもここまで…

「だからお茶屋で別れの盃などいかがですか」と客引きが呼びかけます「こちゃへ、こちゃへ」

ちなみに、ついでですから、ゴールする京都三条大橋・都入りの絵と歌も載せておきます。

お前と私は 草津縁 中山道 

夜ごとに搗いたる 姥が餅

    こちゃ 矢橋で大津の 都入り

こちゃへ こちゃへ

草津宿と腐れ縁を掛詞にしていますね。姥が餅は草津宿の名物のお菓子です。

ちなみに安藤広重の東海道五十三次図は55枚あります。ここに紹介した2枚、出発点のお江戸日本橋と京の三条大橋は「宿場」「問屋次」の場所ではありません。これが「+2」です。

さて、芝は芝明神、芝の増上寺などがありますが、今回のドラマでは古今亭志ん生の古典落語「芝浜」が脇テーマとして流れていますから、その舞台となるお社、魚河岸の辺りか?と勝手に想像します。

そうなると、そこは・・・明治維新の際に、西郷隆盛と勝海舟が「江戸城無血開城」の談合をした場所です。現在のJR田町駅の北側あたり、高輪の大木戸跡も近いですね。大木戸の跡には石垣だけが残っています。

四三さんも、練習でこの辺りまで走ってきていたのでしょうか。

クーベルタン男爵

近代オリンピックの提唱者として有名な方ですね。とりわけ彼の名言として残る

「オリンピックは 勝つことではなく 参加することに意義がある」

がオリンピック精神として有名です。

「負けたら切腹」と辞退する四三に、嘉納治五郎がクーベルタンのこの言葉を引用して、説得していました。

・・・が、この言葉はクーベルタンの言葉ではありませんでした。

この言葉が有名になったのは1908年の第4回ロンドン大会です。当時、開催国のイギリスとアメリカには敵対感情が漲っていて、アメリカ選手団には露骨な嫌がらせが起きていました。

やる気を失いかけたアメリカ選手団に、随行してきていたタルボット大司教が、セントポール大聖堂で説教します。

「(オリンピックで)重要なのは、参加することである」

この言葉で勇気をもらったアメリカ選手団は、元気を取り戻して活躍したと言います。

この話を伝え聞いたクーベルタン男爵が、各国代表を集めた晩さん会の席上で「引用し」「脚色して」伝えます。名演説だったようです。

嘉納治五郎さんもそれを聞いた一人かもしれません。

次の第5回大会ストックホルム大会には金栗、三島が参加しますから、嘉納治五郎は第4回のロンドン大会には行っていたはずです。直接聞いたのでしょう。

嘉納もそうですが、クーベルタンのスピーチを聞いた各国代表は感激し、それぞれの国の言葉で「クーベルタンの言葉」として伝えます。

まぁ・・・、著作権争いや、盗作騒ぎなどない時代ですし、創作者の大司教の方も問題視しませんでしたから、そのまんま歴史に残りました。

クーベルタンが自ら語った言葉は「アスリート精神」として残っています。

「自己を知る、自己を律する、自己に克つ、これぞアスリートの義務である。アスリートにとって最も大切なことである」

こちらの方はあまり知られていませんが、「知る、律する、克つ」は禅にも通じます。

柔道、剣道などの日本の武道にも通じますね。クーベルタンとは同世代の柔道の創始者・嘉納治五郎の心にも、強く共鳴したものと思われます。

クーベルタンの功績と言うか、作品には「五輪マーク」もあります。

さすがフランス人。芸術の町パリの出身だけに、デザインの才能もあったようです。

5つの輪はヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア、オセアニアの5大陸を象徴します。

どの色がどこか? 決まっていません。

とは言え・・・肌の色で連想してしまいそうですね。