「論語と算盤」逐次解説 第7回 

文聞亭笑一

25、人生とは 一生が努力である

勉強は青年がするものとは限らぬ。老年になっても勉強の心を失ってはならぬ。

勉強するとは、単に知識を増やすことだけではない。

知力いかに十分であっても、これを働かせねば何の役にも立たぬ。

およそ勉強心の強い国は栄え、怠惰の国は衰弱している。

平たく言えば「知識は使ってナンボのモノ」ということを力説しています。仕入れた知識を実務に使い、使いこなして、さらに改良を加えることが「努力」であり「知恵」を得ることになるのだと説きます。

確かにその通りで、「知っている」というだけの知識の多さを計測すれば、大学受験生が一番かもしれません。だから予備校の林先生などは物知り一番として、マスゴミが重宝に使います。

東大生も、その意味では知識日本一でしょうね。

さてこれを、日用に使い、有益な結果を得ようとすると・・・なかなかに大変です。

まずは使う場面が出てきません。世の中は学問中心に動いてはおらず、事件、事故中心に動きます。「困った! どうする?」の連続です。

こういう時は、経験を積んだベテランの出番ですね。眼前の問題と、それに似た過去の経験を比較対照し、知識を選んで解決手段に迫っていきます。林先生や東大生の出番はありません。

我々老年、老兵は、知識の量は若者に敵いませんが、経験則は彼らの10倍、100倍持っています。

これを若者たちに提供しながら、よりよい明日に繋げていきたいですね。その意味でも、老若協働の場所づくりが必要です。

26、意志の力を鍛えよ

およそ物事は「かく、せよ」「かく、するな」と云うが、実際に問題に直面したら、それを決めるのは自分である。

常日頃からよほど鍛錬しておかないと急場の用に立たない。

人間の精神の能力は智情意で表されるが、この三要素の総てが重なった所に「決断力」がある。

経営、災害、戦いの場面では、リーダの決断で組織の運命が決まってしまう。細なる場面から、経験を積んでおくことだ。

渋沢栄一は・・・と云うか、明治・大正の人たちは「鍛える」という言葉が好きなようです。

どこかに武士道、侍文化が残っていて、刀を鍛える、鍛造するという根気のいる作業を尊びます。

決断力を鍛えるには「修羅場を踏む」・・・つまり、生死を決するほどの重要な場面を何度も経験し、成功、失敗事例を繰り返しながら経験を蓄えていくしかありません。

机上演習を何度したところで、身に着くものではありませんね。

こういう経験が積めた人は・・・ある意味で幸せな人です。何があっても驚きません。

27、仁義、道徳を以て利の道を追うべし

真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して長続きはしない。

世間では商工業は利得を追うばかりで卑しいというが、欲望というものは常に人の心に持たねばならぬ。しかし、その欲望は道理によって分を越えてはならぬ。

栄一の時代に「信用」という言葉がなかったのでしょうか。論語と算盤には出てきません。

栄一が主張することはことごとく「信用重視」です。手形決済と言う日本独特の支払制度を作ったのは栄一か、それともライバルの岩崎弥太郎かは知りませんが、日本経済は「信用」によって成り立ち、発展してきました。

お金がなくても物が買えたのです。戦後、いや私の現役時代でも120日手形が一般的で、台風手形とか、お産手形などというものすら存在しましたね。

ともかく、明治生まれの経営者には「企業は公器」と言う概念が強くありました。

公器ですから、私利私欲で経営してはいけません。私のお世話になった会社の創業者は「利益三分法」なる理念を持ち、株主、経営、社員に1/3あて利益配分する方針を掲げていました。

工場や事業所の立地自治体にも応分の貢献をすべく配慮し、Win-Winの関係づくりを心掛けていました。「仁義、道徳を以て・・・」とはそういうことでしょう。

一時期、野末陳平とかいう芸能人が税金党とかいう政治団体を作り、税金を払わない運動などをして、世の中小企業主を節税、脱税に導こうとしたことがあります。

企業が道徳に従って社会に責任を果たすには、先ずは法人税をしっかりと支払えるようにすることです。

赤字では税金も払えず、社会貢献もできません。節税とか言って…納税義務すらケチるような経営者は、栄一のような明治の経営者から「喝」を入れられるでしょうね。

赤字でも、従業員の給与からは天引きした所得税を支払います。これが最低限の社会貢献です。

28、持つ人の 心によりて宝とも 仇ともなるは黄金なりけり 

銭ほどに阿弥陀は光る ・・・お賽銭の高でご利益が変わる

地獄の沙汰も金次第  ・・・金さえあれば地獄とて平穏に過ごせる

いかに多くの財を費やしても唐辛子を甘くすることはできない・・・が、無限の砂糖を以てその辛みを消すことはできる

金にまつわる格言は枚挙にいとまがない。

金は実に威力あるものなれども、金はもとより無心で、善用されるか、悪用されるか、その使用者の心にある。

この文章を読んで「♪ お金は大事だよ~」とアヒルを思い浮かべてしまうところが文聞亭の低俗さです(笑)。

この章のタイトルに使わせていただいた昭憲皇太后の歌は含蓄がありますね。

この一首で、渋沢栄一が語りたいことの総てを言い表しています。

栄一が引用しているお金に関する格言、成句を記しておきます。

小人罪なし、宝を抱く、これ罪

君子財多ければその徳を損し、小人財多ければその過ちを増す

富み かつ貴きは 我において浮雲の如し(論語・・・孔子のやせ我慢??)